昭和名作館

音楽・映画・本など・・・昭和作品あれこれ。

「男はつらいよ 望郷篇」~~偉くなくとも地道な暮らし

男はつらいよ 望郷篇
1970(昭和45)年/松竹
監督:山田洋次
出演:渥美清/倍賞千恵子/長山藍子/森川信/三崎千恵子/前田吟/津坂匡章/井川比佐志/松山省二/杉山とく子/笠智衆/佐藤蛾次郎/太宰久雄
主題歌:「男はつらいよ」渥美清


長山藍子・井川比佐志・杉山とく子…と、テレビ版の寅さんファミリーが顔を揃えたシリーズ第四作目。
テレビ版でさくらを演じた長山藍子が本作のマドンナです。

 

【あらすじ】
つね(三崎千恵子)の冗談を真に受けて、竜造(森川信)が死にかけていると勘違いした寅次郎(渥美清)は、近所の人や葬儀屋に連絡したりと騒ぎを大きくしてしまい、竜造と喧嘩になる。そんな中、むかし世話になった正吉親分(木田三千雄)が危篤だと聞き、寅次郎は登(津坂匡章)と一緒に札幌へ向かう。息子に会いたいという親分の最後の願いを聞き、二人は親分の息子さがしに奔走するが、息子の澄雄(松山省二)は正吉を拒絶し、正吉はその日に息を引き取る。
戻って来た寅次郎は、地道に働く決心をする。
浦安の豆腐屋で真面目に働き始めた寅次郎は、店の娘・節子(長山藍子)に密かに思いを寄せるが…。


本作は「労働」という大きなテーマを通して、寅さんの人間的成長を見事に描いています。

さくらに説教されてその言葉に感銘を受け、親分の惨めな末路を目にしたこともあり、人生について考え直し地道に生きていく決心を固める寅さん。
さくらの言葉そのまんまに登や源ちゃんに得々と説教する寅さんの姿は、可笑しいやら切ないやら。なんにせよ、労働について真剣に考え、人として進歩を遂げる…よいではないですか!
「油にまみれる」ことに異常なまでに固執するあたりは大爆笑です。

そんな寅さん、油揚げを郵便小包で柴又に送ってくるが腐ってる…これまたメチャクチャだなぁと(笑)  この当時はクール便なんて当然存在しませんが、こんなベチャベチャしたものを郵便小包で送る人なんていたんでしょうか(笑)
しかし、汗水たらして一生懸命働き、初めてのまともな労働の成果である油揚げをウキウキで送る寅さんの姿を想像したら、なんだか泣けてきます。便り代わりの油揚げ、ただひたすら純粋に、みんなに美味しく食べてほしかったんでしょうねぇ。

格好ばかり気にして、下心も丸出しなんだけど、意外にも働き者の寅さん。
「仕事ってのはね、何しても楽なものってのはないんだよ」
この何気ない一言に、涙が出そうになりました。
楽な仕事など無い、本当にその通り。わずかな期間でそれを悟った寅さん、それも懸命に労働に励んだからこその気づきでしょう。いい年したオジサンだけど明らかに人間的に成長しているのが感じられて、バカ息子の卒業式を見守る親のような気持ちになってしまいました。
嘗てのフーテンの姿は影も形もなく、そこにあるのは正に労働者の姿でした。

マドンナの長山藍子が登場するのは開始から約1時間経ったあたりで、出てくる時間も短いのですが、その強烈なインパクトや破壊力たるや、シリーズ史上稀に見る残酷さではないでしょうか(笑)
あんな思わせぶりなセリフ吐かれちゃ、寅さんが勘違いしちゃうのも無理ない。
長山藍子と井川比佐志の組み合わせは、テレビ版と同じってのが面白いですね。

あれだけ真面目に働いていた寅さん、失恋するとすぐさま失踪してしまうのが勿体ない。本当に生き生きと輝いて、楽しそうに労働していたのにね。しかも源ちゃんに押し付けるとか、これ以上ない最悪すぎる去り方(笑)
でも、やっぱりこれが寅さんなんですよね。人に迷惑かけてこそ光る男です。弱さを隠すこともせず、そこに人間臭さが感じられて、どうしようもなく愛おしいと思わせます。

緑の中を駆け抜けるSLの姿がとても美しく印象的な本作。煮えたぎる感情を燃やすように黙々と投炭する澄雄の姿も、素晴らしい画になっていますね。
ロケ地の小沢駅周辺のことを色々調べていたら、トンネル餅を食べてみたくなりました。日持ちしないようなので、現地でしか食べられないってのがまた非常にそそられます。
いつかは小沢に行ってみたいですね。