昭和名作館

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「新・男はつらいよ」~~憧れのハワイの地は遠く…

新・男はつらいよ
1970(昭和45)年/松竹
監督:小林俊一
出演:渥美清/倍賞千恵子/栗原小巻/森川信/三崎千恵子/前田吟/笠智衆/佐藤蛾次郎/太宰久雄/津坂匡章/財津一郎/佐山俊二/二見忠男/三島雅夫/横内正
主題歌:「男はつらいよ」渥美清


栗原小巻をマドンナに迎えたシリーズ第四作目。
テレビ版の演出を手掛けた小林俊一が監督を務めています。

 

【あらすじ】
競馬で大穴を当てた寅次郎(渥美清)は、名古屋からタクシーで柴又に帰ってくる。
竜造(森川信)・つね(三崎千恵子)に孝行しようと考えた寅次郎は、登(津坂匡章)が働く旅行代理店でハワイ旅行を申し込むが、出発当日になって旅行代理店の社長が寅次郎の金を持ち逃げしていたことが発覚。ハワイ旅行は夢と消えるが、近所の人たちに派手に宣伝してしまった手前、自宅に隠れて過ごすことにする。そこに泥棒が入って騒ぎとなり、結局近所の人たちに全て知られてしまった。この騒動で竜造と揉めた寅次郎は旅に出る。
一月後、寅次郎は戻ってくるが、自分が使っていた二階の部屋は人に貸されていた。下宿人の春子(栗原小巻)と対面した寅次郎は、すっかり春子に惚れてしまい…。


今回は冒頭とラスト以外は、寅さんはほとんど柴又にいるんですよね。
途中、一月ほど旅に出ていますがその描写はないし、羽田には行きますが東京から出てないし。こういうのもたまには良いですね、柴又の街の空気感が存分に感じられて。

ハワイ旅行と泥棒のあたりのドタバタ劇はかなり笑えますね。
当時のハワイ旅行といったら、庶民にはまだまだ夢のようなものだったでしょうからね。あそこまでみんなが浮足立って、寅さんがウキウキで日の丸風デザインのスーツを新調しちゃうのもわかるような気がします。
なんだかんだ言って、めちゃくちゃ楽しみにしてるおいちゃん・おばちゃんが可愛い。おばちゃんの洋装を見られるのは、かなり貴重ですね。ツィッギーを思わせるワンピース×カラータイツのファッションが、かなりイケてます。

後半ちょっと失速してしまいますが、前半のパワフルな笑いは見る価値大いにありでしょう!

本作で気になったのは、マドンナの春子先生の人物像が掘り下げられておらず、バックにあるものが何もわからないというところです。
吉田医師(三島雅夫)とのやり取りから、過去に父親との間に何かがあり確執があるということだけはわかるのですが、具体的に何があったのかは語られず、匂わすようなものも何もない。そのため、観ていて春子先生に感情移入しづらくなってしまっています。
公式解説ページによると、父親は春子先生と母親を捨てて出奔したらしいですが…。
恋人の存在もイマイチ説得力に欠けるというか。
隆夫(横内正)が春子先生の恋人だという確証はどこにもないと思うのです。何を以てみんな「春子先生の恋人だ!」と騒ぐのか。仲良く一緒に歩いていたから?それだけ?んなバカな…。
春子先生が隆夫宛に手紙を書いているシーンはありましたが、それも決め手にはかけますし。手紙以外に二人の繋がりを感じさせるものは何もなく、隆夫の存在は友達・親戚・兄弟・恋人…どういう風にも捉えられると思うんですよね。
それが突然、寅さんがまたフラれた!みたいになってるのは、無理矢理こじつけてる感が拭えないですね。
短期間での製作に追われて、この部分は脚本を練る時間があまりなかったのかな?などと考えてしまいました。

それはさておき…。
失恋して飲んだくれ、とらやに戻って来た寅さん。
「なんだよぉ、すっかり年取っちまいやがって」
この台詞からから始まるおいちゃん・おばちゃんへの語りかけが切なくて泣けます。
ふと気が付くと、白髪が増えて、しわも増えて…いつの間にか年老いてしまった親の姿に寂しさを感じることがあります。孝行したいとは思いつつ、受けた恩に見合うだけの孝行が出来ているのかどうかもわからぬまま、ただ時間だけが流れて親はどんどん年老いていってしまう。残された時間と自分の不甲斐なさを考えて、涙が出ることもあります。
そんな中年に差し掛かった人間の切なさをこれでもかと見せつけられて、込み上げてくるものがあります。

春子先生を元気づけようとするあたりもズレてはいますが不器用な男の優しさが感じられ、また、序盤のハワイ旅行の件もおいちゃん・おばちゃんへの気遣いが感じられ、寅さんの優しさに溢れた作品になっていると思います。

春子先生のために買ってきた人形が、よくよく見ると寅さんそっくりで、ぽつんと座っている人形が寂し気な余韻を残します。