昭和名作館

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「月曜日のユカ」~~月曜日を、私にちょうだい。

月曜日のユカ
1964(昭和39)年/日活
監督:中平康
出演:加賀まりこ/北林谷栄/中尾彬/加藤武/波多野憲


私がこの映画を知ったのは二十歳頃だったかしら、若い女性向けのファッション誌で「オシャレな映画」と紹介されていたのを読んだのです。”加賀まりこのコケティッシュな魅力が満載!”みたいな感じの記事だったかと思います。ファッション誌という特性上、そのような部分がクローズアップされるのは自然なことなのかもしれませんが、いやちょっと待ってくださいよ、と。たしかに、本作の加賀まりこは狂おしいほどに可愛らしく、スクリーンに閉じ込められたその時間は永遠の輝きを放っているかのようです。ただ、ファッション性だとかそういった表面の美しさにばかり気を取られて作品の本質が埋もれてしまうのは、非常に勿体ないことです。
小悪魔キューティ加賀まりことオシャレでスタイリッシュな面ばかりが取り上げられる本作ですが、内容ももっと評価されるべき作品だと思います。
素直で繊細な少女の心の痛みがグサリグサリと突き刺さってくるようで、なんとも切ないではありませんか。

 

【あらすじ】
ナイトクラブで働く18歳のユカ(加賀まりこ)は、男を悦ばせることに生きる喜びを感じていた。彼女には恋人の修(中尾彬)の他、パパと呼んでいるパトロンの男(加藤武)がいた。
ある日、ユカは修とデートしている最中、街中の玩具屋でパパが娘に人形を買い与えて嬉しそうに微笑んでいる姿を目撃する。私もパパをあんな風に喜ばせたい…。ユカはパパにお人形を買ってほしいとおねだりし、日曜日が家族サービスの日なら月曜日は私のための時間にしてほしいと願う…。

 

まず、この作品で最も驚いたのは、加賀まりこの母親を演じている北林谷栄。お婆ちゃん役じゃない彼女はなかなか新鮮!!
元オンリーさんという設定で男について色々と語り、妙な妖しさをプンプン撒き散らし、一瞬ではありますが男との絡みで恍惚の表情を見せる…こんな北林谷栄、見たことないですわ。衝撃を受けました。
似たような役柄だと、『にっぽん昆虫記』では女中に売りを強要する女将を演じたりはしていたけど、ここまで”女”を感じさせる役ってのは珍しいのではないでしょうかね。

母親の価値観を何の疑いもなく受け入れて生きてきた純粋なユカにとって、”愛”というのは男を悦ばすことであり、”本当の愛情”と”男女の関係”の違いもよくわからないわけです。

「愛してるわ、今でも」
「愛なんて言葉をそう簡単に使いなさんな」
ユカと奇術師の男(波多野憲)とのやり取りの中でこんな会話があります。
男性の本当の愛を知らずに生きてきたユカが愛を知っているかのように振る舞うのは滑稽でもありますが、必死で背伸びするその姿からは涙ぐましい乙女心がチラチラと垣間見えて、なんともいじらしいです。

父親が居らず、母親は元オンリーさんという特殊な家庭に育ったがゆえに、ユカが父性愛に飢えていたのは想像に難くないですが、ただひたすら無邪気に純粋にパパに家族のような愛を求める場面は、胸がキュッと締め付けられますね。
「お人形を買ってほしい」と言えば、パパは娘に買ってあげた時と同じくとっても喜んでくれるはず、だって私も娘みたいなものだから…。
非常にバカげた話ですが、愛を知らないユカのズレた感覚から生み出されるこの願い事、その純粋さゆえに何とも言えない気持ちになります。現実世界にこんな女の子がいたとしたら、単なる頭の弱いアブナイ子でしかないと思うのですが、愛くるしい加賀まりこの魅力がそう思わせないのが凄いところです。
ユカがパパに買ってほしいとせがんだ”お人形”は、家族愛=無償の愛の象徴のようなもの。その温かい眼差しを私にも向けてほしい!…というユカの心の叫び声が聞こえてくるようで、人形を巡ってのやり取りはなんとも切ないです。

男性と関係を持つことに何の抵抗もなく、修とパパ以外にも様々な男性と関係を持ってきたユカですが、そんな彼女が唯一誰にも許さなかったのが唇。これは幼い頃の記憶に原因があるわけですが、ユカにとっては唇を守るということこそが、純潔を守るのと同じ意味だったのでしょう。しかし、その純潔は破られるのです。愛するパパからのお願いを呑んだことによって…。
船からヨタヨタと出てくるユカの姿は、喪失した女の絶望の表情そのもの。
ただ一つ救いだったと思えるのは、この件の前に、恋人であった修に唇を捧げていたことでしょうか。ただ、それも時すでに遅く、修はもうこの世の人ではありませんでしたが…。

結局、彼女が探し求めていたパパの愛はどこにもなく、他に見つけかけた本当の愛もするりと失い…。

どこまでも孤独なユカの際限ない寂しさがヒシヒシと伝わってきて、気が付いたらユカと一緒に涙を流していた自分がいたのです。
なにか心の中を鋭く抉られるような強烈な痛みが残る、そんな作品です。