昭和名作館

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「火の鳥 宇宙編」~~宇宙の果てで永久に生き続ける愛

火の鳥 宇宙編
1987(昭和62)年
監督:川尻善昭


手塚治虫原作の漫画『火の鳥』宇宙編のOVA。
今回は未来の宇宙を舞台に、壮大なストーリーが展開されます。


西暦2557年。地球へと向かう宇宙船が事故で大破。操縦していた牧村五郎はミイラ化した姿で操縦席で見つかった。他4名の乗組員は、救命艇で脱出。4人は宇宙空間を漂いながら無線で会話をするが、そこから牧村の不思議な過去が徐々に浮き彫りになってくる。
そうしているうちに、4人の後方からもう一隻の救命艇が近づいてくる。牧村は亡くなり、自分たちは全員ここにいる。追ってくる救命艇に乗っているのは一体誰なのか…。


宇宙船というとても狭い空間の中での人間関係に絡めて、愛・嫉妬・憎しみ・人間の業というものが実に見事に描かれています。

物語は静かに進み、宇宙が舞台ということもあってか、フワフワとしたとても不思議な感覚に包まれます。この心地よい感覚とは裏腹に、非常に残酷な結末が待っているわけですが。

事故時に操縦席にいた牧村、船長の城之内、木崎、猿田、ナナ…と、宇宙船の乗組員は全部で5人。牧村と木崎はナナを巡って対立しており、木崎は牧村を死に追いやろうとした過去がありました。
救命艇で脱出した後、木崎の救命艇だけはぐれてしまうのですが、これは自業自得、因果応報というものでしょう。

猿田とナナの二人だけは、流刑星といわれる星へ無事着陸します。そして、もう一隻の救命艇も…ここに乗っていたのは、赤ん坊の姿となった牧村でした。

猿田とナナは、流刑星で出会った火の鳥から、牧村の過去と彼が受けた罰について聞かされます。牧村は永久に死ぬことはできず、年を取っては若返りまた年を取る…を繰り返すというのです。
本来なら罰を受ける牧村のみが流刑星に送られるはずでしたが、猿田とナナも誤って送られてきてしまったため、火の鳥は二人を地球に返してくれると言います。

死というのは悲しいものだと思いますが、永久に生き続けなければいけないというのはそれとは比にならないほどに悲しく残酷なものであると思います。
何もない流刑星で、愛も希望も何もない空間で、ただそこにずっと存在していなければならないわけです。

牧村にとって唯一の救いだったのはナナの存在でしょうか。
ナナは地球へは戻らず、牧村のそばにいることを選びます。姿を変えて…。
もはや人間の姿でなくなったナナの姿は悲惨だとも思えますが、永久に牧村と結ばれるわけですから、本人にとってはこれが最も幸せな道だったのかもしれません。
ナナの存在は単なる母性愛というだけではなく、宇宙創造の根源である母なる偉大なエネルギーのようなものを感じさせます。

一方で、猿田は最後の最後で罪を犯してしまい、彼もまた火の鳥から罰を受けて、子々孫々いつの代までも未来永劫苦しみ続けることになります。
彼の苦しみも、永久に宇宙に漂い続けるのです。

「火の鳥」とは一体何なのか?と考えたとき、その答えは人それぞれかと思います。
宇宙が誕生してからすべてを見てきた、またこの先のすべてを知っている宇宙精神、潜在意識が生命体として姿を現したものなのかな…と、私は思っています。
「火の鳥」が持つ意味がどうであれ、人生とは何か…と深く考えずにはいられず、シリーズを通して自分の生き方を見つめ直す機会を与えてくれた『火の鳥』は本当に素晴らしい名作であります。