昭和名作館

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「妹」~~兄妹、切ない二人。


1974(昭和49)年/日活
監督:藤田敏八
出演:秋吉久美子/林隆三/吉田由貴子/吉田日出子/伊丹十三/横山道代/初井言栄/片桐夕子/村野武範/藤田弓子/ひし美ゆり子/藤原釜足
主題歌:「」かぐや姫


本作は、かぐや姫の「四畳半三部作」第三弾の『妹』をモチーフとした作品で、両親を亡くし二人寄り添うように生きる若い兄妹の姿を描いた青春映画である。


小島秋夫(林隆三)は引越し屋を営みながらひとり生活していたが、そこへ妹・ねり(秋吉久美子)がひょっこり帰ってくる。ねりは鎌倉で恋人の耕三と同棲していたが、ケンカ別れをして戻ってきたのだった。
翌朝、耕三の妹・いづみ(吉田由貴子)がねりを訪ねてくる。耕三も居なくなってしまったので、ねりに詳しい話を聞きたいということだったが、ねりがまともに取り合わなかったため、いづみは仕方なく鎌倉へ帰っていく。
ここから兄妹ふたりでの生活が始まるのだが…。


赤ちょうちん』同様、非常に暗い青春映画である。
そりゃそうだ、「四畳半三部作」をモチーフにした明るい若さ弾ける青春映画なんて想像できないもの。

営団地下鉄東西線の早稲田駅に秋吉久美子が降り立つところから物語は始まる。
秋吉は落ちていた小さな可愛らしい時計を拾い自身の手首に付けると、危うく崩れ落ちてきた天井に直撃されそうになりながらも駅を出る。
駅構内には新聞紙が舞い、ゴミだらけで非常に汚い。

主役の兄妹は人間性に問題があるように思えるのだが(特に兄)、それは置いといて、なんという美しい兄妹なのかしら。林隆三、カッコよすぎでしょう!
親を亡くし、ひっそりと肩寄せ合って暮らす兄妹。普通の兄妹の関係以上の特別な感情を匂わすものが随所に散りばめられ、何やら妖しい雰囲気が漂う。だからといって兄妹の間で何かあるわけでもないのだが、ヘンに妄想力がくすぐられるパワーがこの映画にはある。
用意しておいた打掛を着せて妹を送り出してやろうとするシーンなどはまさにかぐや姫の『妹』の世界そのもので、切なくて泣ける。
妹に味噌汁を作らせるシーンなんかもあるし、かぐや姫メンバーの山田パンダが刑事役でカメオ出演していたりもする。

妹の秋吉久美子には、兄にも言えぬとても重たい秘密がある。
最後の方で、秋吉がヒモが切れた時計を踏みつける場面があるが、重苦しい空気と過去を断ち切って、心機一転新たな人生への旅立ちの決意が感じられる。
そして、その後の展開はあまりにも意外すぎて衝撃だった。

ラストの林隆三がひとり佇む画がとても印象的。
禊の旅に出た妹のその後は誰にもわからないが、居ても居なくても兄の妹に対する思いは変わらないであろうし、寧ろますますその愛は深まっていくのではないだろうか。

鑑賞後、すべてを知った上で冒頭の早稲田駅のシーンに戻ってみると、これはなかなか深いなと唸らされる。
振り返って崩落した天井の残骸を見つめる姿は自身の過ちに対する後悔、時計も単なるファッションアイテムではなく過去にあった「何か」を暗示させるものと思える。ゴミだらけの汚い駅は、ねりの胸中をザワザワと騒がす雑念の象徴みたいなものかもしれない。

素晴らしいシーンも多いのだが、その一方で、これは必要なの?っていうエピソードも全体的に多いような気がしないでもない。
林隆三に抱き着き激しく求める伊丹十三には笑ったが、その直後に伊丹十三夫妻に起こった事件はあまりに唐突過ぎてポカーンとしてしまった。イケナイ現場を見てしまった妻が気に病んで…ということなのだろうが、わざわざこのエピソードを突っ込む必要があったのか、全く意味不明である。

『赤ちょうちん』もそうだけれど、これは細かい内容云々よりも、この時代の雰囲気を楽しむ映画かと。
発展していく街とそこに混在する貧しさ、学生運動収束後の空虚な空気感…そういうものを体感できる貴重な作品であると思うのだ。