昭和名作館

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「赤ちょうちん」~~狭いアパートで肩寄せ合って…

赤ちょうちん
1974(昭和49)年/日活
監督:藤田敏八
出演:高岡健二/秋吉久美子/長門裕之/河原崎長一郎/石橋正次/横山リエ/山科ゆり/中原早苗/悠木千帆/三戸部スエ/陶隆司/南風洋子/山本コウタロー/小松方正
主題歌:「赤ちょうちん」かぐや姫


本作はかぐや姫の「四畳半三部作」の第二弾『赤ちょうちん』をモチーフとした作品で、貧しいながらも肩寄せ合って懸命に生きる若者の姿を描いた青春映画である。


ある日、有料駐車場に勤務する久米政行(高岡健二)と出会った霜川幸枝(秋吉久美子)は、政行のアパートで一晩を共に過ごす。
その後まもなく政行はその部屋を立ち退き、幡ケ谷の火葬場近くのアパートへと移り、そこへついてきた幸枝との同棲生活が始まる…。


高岡健二が演じる政行という男はどうしようもないクズ野郎。
初めて二人で一夜をともに過ごしたとき、幸枝が現金書留の封筒を政行の部屋に忘れていくのだが、それを勝手に開封して、入っていた金を競馬につぎ込み全部すってしまう。その金は、幸枝が熊本で暮らす病気の婆ちゃんのために送ろうとしていたものだった。
なんでこんな男にくっついていこうと思ったのか、全く理解に苦しむ。「幸枝」という名前なのに、自ら不幸に飛び込んでいくような男選びをするとは。
幸枝の若さゆえの無知というものにちと心が痛むが、穢れを知らないその目はなんと純粋で美しいのだろうと羨ましくもある。

二人が行くところ行くところ、とにかく不幸が付きまとう。
嫌がらせを働くアパートの管理人・悠木千帆(樹木希林)、何故か言葉を発しない不気味な隣人・山本コータロー、存在意義がよくわからないお邪魔虫・長門裕之…。次から次へと気味悪い人間が登場するし、政行のクズっぷりはブレないし、本当に不幸のオンパレードみたいな映画だ。
そして、幸枝は徐々に病んでいく。

隣家の旦那(陶隆司)と将棋を打っていた幸枝は、意味不明な独自ルールを適用して勝ち続け、ひとり無邪気にはしゃぐ。
このあたりから、もうすでに崩壊への序章が始まっているのだが、そんなことなど気にも留めずに更なるクズ行為を繰り返す政行。どこまでも勝手な男だったが、最後に大きなツケが回ってくる。

狂った幸枝が鶏肉を貪り食う姿は、もう完全にホラー映画の世界。
義眼(政行が誤飲して吐き出したもの)をずっと握りしめる姿も異様だが、そこには一途さゆえの狂気のようなものが感じられる。この少女は、どこまでもまっすぐで純真で寂しがりなのだ。

赤ん坊を背負って茫然と立ち尽くす政行の目には、この世界はとても悲しいものに映っているのかもしれない。
しかし、自分が蒔いた種は刈り取らねばならないということだ。
若くして重たいものを背負ってしまった彼は、この後どのように生きていったのだろうか。

救いようもない暗い話なのだが、なにか強烈に惹かれるものを感じるのは、やはり昭和歌謡の独特の世界観というのは日本人の心の琴線に触れるものがあり、この作品がそれを見事に映像化したものであるからなのだろう。
『赤ちょうちん』の詞とはちょっとかけ離れたストーリーかもしれないが、醸し出す雰囲気は似たようなものが感じられる。

かぐや姫の曲以外にも、『男なら』『麦と兵隊』『ラバウル小唄』などの戦時歌謡がスナックの店内BGMで流れていたりするのだが、これらの曲も、若い二人に付き纏う暗い影や貧しさを演出するのに大きな役割を果たしている。

『赤ちょうちん』の歌詞に「生きてることはただそれだけで 哀しいことだと知りました」という一節があるが、まさにそれを体現したような作品であった。