昭和名作館

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「黒い十人の女」~~消された男

黒い十人の女
1961(昭和36)年/大映
監督:市川崑
出演:船越英二/山本富士子/岸惠子/宮城まり子/岸田今日子/中村玉緒/ハナ肇とクレージーキャッツ


クレージーキャッツの演奏シーンがあるというので、それを観たいがためだけに手に取った一本。これがなかなか傑作だった。
目当てのクレージーは40秒弱の出演で、そのうち演奏シーンは15秒ほど。石橋エータローが病気で休養していた時期なので、代わりに桜井センリが入った6人編成。ほんのちょっとの出演だが、演奏は凄まじくカッコイイし、コントもいい。これをリアルタイムで見られた人たちが本当に羨ましくって仕方がない。
この時代にはこういう本物のエンターテイナーがわんさかいたのに、今の時代テレビを賑わしているのはタレントという肩書のついたワケのわからない人たちばかりで、本当のスターと呼べる人なんてほんの一握り。私が子どもだった80年代もまだまだテレビは面白かったけど、気が付けばいつの間にかつまらない番組ばかりになってしまい、最近ではテレビの電源を入れることすら少なくなってきた。
技術は進歩しているのに、内容は劣化しているというのはどういうことなのだろう。テレビも映画も音楽も、半世紀前のこの時代の方がずっと輝いて見えるのだ。

テレビ番組について思うことを長々と書いてしまったが、本作はテレビの世界に絡んでいる男女が繰り広げるドラマなのだ。


テレビ局のプロデューサー・風松吉(船越英二)は、妻の双葉(山本富士子)のほかにも女優の石ノ下市子(岸惠子)をはじめ9人の愛人がいた。
風のことが頭から離れない女たちは、「誰かがあの男を消してくれればいい」「流感にでも罹ってポックリ逝ってくれないか」などと口にするようになる。それを耳にした風は、女たちが自分を消そうと企てているのではと怯えだす…。

 

船越英二が演じる風松吉という男は女にだらしない優男で、どこか情けない感じが漂う。フワフワとしていて掴みどころがなく、どこまでも軽いこの男、「風」という名前を当てたのが本当にピタリとはまっている。
それを取り巻く十人の女も我が強くて欲丸出し、そのくせ都合悪くなると我先にと逃げ出したりと、なんとも滑稽だ。

女たちは風に夢中になりつつも、あんな男からどうにか意識を反らそうと必死になるが、どうにもこうにもならない。人間というのは不思議なもので、感情を無理に抑えつけようとすると、途端に大逆襲を食らう。抑えたいのに、感情はさらに大きな金切声をあげて自分を攻撃してくる。誰でもそういう経験はあるだろう。
観ている人間からしたら、遊び人に振り回されるなんてアホらしいと思うけれど、作品中の当事者たちにしてみれば生きるか死ぬかぐらいの凄まじい戦いが自分自身の中で繰り広げられているのだろう。

風には思いがけない形で制裁が下される。
これはある意味、物理的にこの世から消されるよりもよっぽど悲惨な結末のように思う。

岸惠子がいう「自分の人生の目的とは何か?」という問いに答えられる人間がどれだけいるのだろう。
ブラックなコメディだが、最後の最後でガツンとくるものがある。
ラストの画は、女の腹の中に渦巻くどす黒い狂気と、絶望の淵に立たされた風のお先真っ暗な人生を暗示しているかのようで、なんとも恐ろしい。

女優陣の圧倒的な存在感と、モダンでスタイリッシュな映像美。その美しさゆえに不気味さが際立つ作品だった。