昭和名作館

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「遥かなる山の呼び声」~~ひと夏の美しい思い出

遥かなる山の呼び声
1980(昭和55)年/東映
監督:山田洋次
出演:高倉健/倍賞千恵子/吉岡秀隆/ハナ肇/武田鉄矢/渥美清/畑正憲


山田洋次の「民子三部作」の三作目。
北の大地で暮らす母子とその前に突然現れた男の温かな交流を描く。


北海道・中標津で酪農を営む民子(倍賞千恵子)は、夫を失ってから息子の武志(吉岡秀隆)と二人暮らし。ある嵐の夜、一人の男(高倉健)が訪ねてくる。道に迷ったので泊めてほしいというのだ。民子は仕方なく男を物置小屋に泊める。男は牛のお産を手伝うと、翌日帰って行った。
その年の夏、ふたたび男が現れる。今度はしばらく民子の元で働かせてほしいというのだ…。


朴訥な人柄の健さんと、夫を失ってから必死で生きてきた倍賞千恵子。
暗く長い冬に耐える北国の人間の我慢強さ、芯の強さが滲み出ていて素晴らしい。
子役の吉岡秀隆も好演を見せ、どこか『北の国から』を思わせるような雰囲気がある(『北の国から』が放送されるのは翌年の1981年から)。

最初は健さんに対して頑なに心を閉ざしている倍賞千恵子だが、ハナ肇が出てきた辺りから、健さんに対してちょっと女の恥じらいみたいなものが見え始める。徐々に心を溶かしていく様は観ていてなにか優しい気持ちになれる。
ハナ肇はただのイヤらしいクソジジイかと思いきや、ラストはこいつに思いっきり泣かされるんだから、映画って本当にわからない。そんなの反則だぜ(´;ω;`)ブワッ

シャツに滲む汗、青々と茂る草原、そしてブンブンうるさい蠅ですらノスタルジックな気分にさせる。
武田鉄矢と木ノ葉のこのペアルックも、この時代らしい。

単なる人間ドラマだけではなく、酪農家が抱える問題も浮き彫りになっている。
当時はまだそこまで大きな問題にはなっていなかったのかもしれないけれど、実際民子のように人手不足で行き詰って離農せざるを得なかった人たちも少なくはないのだろうし、廃墟と化した民子の家の画は見ていてとても辛いものがあった。

この作品は、「民子三部作」の一作目『家族』の続編と見ることも出来ると思う。
もし本作を『家族』の続編と捉えるならば、民子があれほどまでに頑なに酪農を続けることにこだわった理由も痛いほどによくわかるのだ。

揺れ動く男女の切ない恋もいいけど、男同士のアツい絆にも泣ける。
吉岡秀隆が演じる武志は、健さんに父親の姿を見ているだけでなく、幼い頃に心に傷を負った男同士でなにか深く通じるものを感じていたのは間違いない。そこには女が入り込むことができない、なにか特別なものが流れているのだ。
互いに多くを語るわけではないが、その思いは画面から溢れんばかりにジワジワと伝わってくる。

思い出は美化されるもの。
武志の心の中では、オジサンと過ごしたあの美しい日々はますます輝きを帯びて記憶に残るのだろう。