昭和名作館

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「故郷」~~消えゆく日本の原風景

故郷
1972(昭和47)年/松竹
監督:山田洋次
出演:井川比佐志/倍賞千恵子/笠智衆/前田吟/渥美清


山田洋次の「民子三部作」の二作目。
今回は瀬戸内海を舞台に、工業化の波に追われた家族の苦悩を描く。


瀬戸内海の倉橋島で暮らす精一(井川比佐志)と民子(倍賞千恵子)の夫婦は、石船「大和丸」で石を運んで生計を立てていた。
あるとき船が故障し、修理代だけでもかなりの金額がかかると言われる。新しい船を買う金もなく、この先どうやって生活していくか悩むが、尾道の鉄工所を見学した精一は、故郷と石船を捨てて尾道で働く決心をする…。


井川比佐志と倍賞千恵子の役名は『家族』と同じで、主要キャストは同じ顔ぶれが並ぶ。

 

高度成長期の工業化の陰で、苦しい決断を迫られる地方の一家族の姿を静かに丁寧に描いている。

本作での精一夫妻は石船で細々と生計を立てているが、船の故障からそれまでの家族の生活が一変。
そして、精一らが世話になっていた船大工の棟梁も工業化の波に抗うことは出来ず、廃業に追い込まれる。

魚屋(渥美清)は言う。
「こんないいとこってのはないやね。どうしてそんないいところをみんな出て行っちゃうんだろうね。なぜここで暮らさないんだろうね」
それに精一の父(笠智衆)が答える。
「街に出た方が給金がいいから」
暮らさないのではなく暮らせない、島では生計が立てられないから出て行かざるを得ない、それが現実なのだ。

転職を勧める姉夫婦ら家族に対して精一は怒鳴り散らす。
そんなことは誰に言われなくとも精一自身が一番よくわかっているはずなのだ。しかし、代々続けてきた石船の仕事と、父親の面倒を見ながら愛する故郷の島で暮らす道を捨てることへの葛藤…精一のイラ立つ姿から、その苦しみを読み取ることが出来る。

結局、廃業して尾道の工場で働くことになるのだが、家族みんなで石船とともに歩んできた人生、そんなに簡単に気持に区切りがつくわけでもないだろう。
最後の石を海に落とした瞬間は、込み上げるものがあった。
島での最後の仕事を終えて戻る途中、燃やされている船が見える。精一らが世話になったあの棟梁が造った船だ。
工業化の波にのまれて廃業に追い込まれた人たちと、大きく変わりゆく時代の中で消えていく美しい自然と日本の家族の風景…激しく燃える船は、これらの象徴だろう。

物語はただひたすら淡々と進んでいくのだが、それが郷愁と涙を誘う。
一度でも生まれ故郷を離れたことのある人間なら、旅立つときの寂しいような後ろめたいようなあの何とも言えない気持ちを思い出さずにはいられない。

加藤登紀子が歌う挿入歌『風の舟唄』が瀬戸内海の美しい風景に溶け込んで、最後は静かな感動の余韻を心地よく残してくれた。